冨、永遠の愛、絆、純潔
光輝く地球からの贈り物、欺瞞に満ちた煌めく鉱物。
その鉱物を得る為に青年は、大人に命令、監視され
手に耕具を携え延々と掘り続ける。
ようやく見つけたと思ったら、ある時は横から掠め取られ
ある時は監視者の少年によって銃殺される。
鉱物は少女の手で磨かれ、大人によって外の世界へと送られる。
等価交換として金を得た者達は、武器へとそれを化する。
何万もの命と引き替えにして得たその鉱物を『血のダイヤモンド』と人々は呼ぶ。
「清秦(きよはた)おじいちゃーん、こんにちわー!」
朝顔の緑のカーテンのようになっている柵の間から
顔を出して私は大声をあげた。
清秦おじいちゃんは近所に住んでいるご高齢のお方である。
中から、庭におるよ。入っておいでーという声を聞き取り
私はお邪魔しますと一言呟いてから裏庭へと足を進めた。
すると、縁側で日向ぼっこの真っ最中の清秦おじいちゃんを見つけた。
茶色の湯飲みを手の中に収めながら、清秦おじいちゃんはニコニコと笑った。
「清秦おじいちゃんこんにちわ。」
「おぉ、こんにちわ。そろそろ来る頃かと思っておったわ。」
「今日も良いお天気ですね。」
「そうだの〜。」
朗らかに笑う清秦おじいちゃんに私もほわほわとした感じで笑顔を返すと
眉を寄せた俺様天使が割り込んできた。
「なんだこのジジイは。」
「なんだじゃないでしょうが!しかもジジイって呼ばないの!」
「あァ?文句言ってんじゃねえぞ。」
「こんのお馬鹿!」
どこか機嫌が悪そうな俺様天使を睨め付け、
清秦おじいちゃんに申し訳なさそうに頭を下げると
気にせんでええよ。と言ってくれた。
ぽんぽんと自分の隣を叩くので私は意図を察し、そこに腰をかけた。
清秦おじいちゃんは俺様天使の方も見て、同じ動作をした。
俺様天使は、理解が出来ないというような顔をしたが、
私が腰をかける動作を見て、渋々とそこに座った。
清秦おじいちゃんは、近くにおいてあったお盆の中の紙包みの中から
様々な色彩の可愛らしい金平糖を手の中に落とそうとしてきたため、
私は慌てて両手で金平糖を受け止めた。
ころりと可愛らしい金平糖が手の中で転がった。
俺様天使も私の手の中を覗き込んで、色鮮やかな金平糖に
瞳をきらきらさせた。
「おいジジイ!これなんだ?」
「こら!清秦おじいちゃんでしょうが!!」
「んじゃァ、清秦のジジイ!これなんだ!?」
分かっていない、と肩を落とすと清秦おじいちゃんは
楽しそうに笑みを零していた。
清秦おじいちゃんが良いなら別に気にしなくても良いのかな?
そんなことを思って私は注意しようとした口を閉ざした。
「ほれ、おぬしも手を出てくれぬかの?」
パッ、と出した俺様天使の手の中にも金平糖がゆっくりと落とされた。
黄色の金平糖を一つ手に取り
俺様天使は色々な角度から眺めたあと、最後に空に翳した。
きらりと光を受けて金平糖が煌めく。
「・・・ちんけな宝石かなんかか?」
その言葉に思わず手の中の金平糖を落としそうになり、
心臓がどきりとした。
そうだった!こいつは非常識な俺様馬鹿天使だった!
ドキドキする胸を必死に抑えながら清秦おじいちゃんを
横目で伺ったが、清秦おじいちゃんは相変わらずにこにこしてるだけで
特別なんら戸惑いなどを見せてはいなかった。
「金平糖を知らんなんだか。ほれほれ、見ておれよ。」
そう言って清秦おじいちゃんは私の手の中から
白色の金平糖をつまみあげ、自分の口の中に放り込んだ。
俺様天使を見上げてみると、愕然とした表情で清秦おじいちゃんを見ていた。
ゆるゆると視線をさげ俺様天使の手元を見てみると、手の隙間から金平糖が
2、3個零れ落ちていっていた。
「人間ってもんは宝石を食うのか!?」
くってかかる俺様天使に清秦おじいちゃんは
からからと笑い、ほれおぬしも食べてみたらどうかの?
と食べるのを勧めていた。
俺様天使は、掌の中にある金平糖を親の仇でもいうように
長い間睨み続けたかと思うとちらりと私を見てきた。
「うん、食べたら?美味しいよ。」
そう言って私もピンク色の金平糖を口の中に放り込んだ。
程良い甘さがふわりと舌の上で広がり、思わず頬を緩めた。
ころころと口の中で転がし溶けていった頃に
意を決したのだろうか、俺様天使も
金平糖を一つつまみ上げ匂いを確かめ、口の中に戦々恐々と放り込んだ。
「どう?美味しいでしょ。」
「・・・・・・・・・甘い。」
「そりゃそうじゃ。」
砂糖菓子じゃからな、と茶目っ気たっぷりでウインクする
清秦おじいちゃんはまるで悪戯が成功した子供みたい。
俺様天使は黙々と手の中の金平糖を平らげていく。
「清秦のジジイ、俺様はこの金平糖とやらを気に入った!」
「そうかそうか。」
満足したような笑顔を向ける俺様天使に
清秦おじいちゃんは何か眩しいものを見たかのように瞳を細めた。
俺様天使と清秦おじいちゃんの会話に耳を傾けながら
自分の金平糖を私は食べていたら、すっと横から手が伸びてきて
金平糖を掻っ攫って行った。
「ちょ、それ私のなんですけど。」
「これなら貢ぎ物として貰ってやるよ。」
私は、ム、と唇を尖らせたが、どこぞの天使とは違って優しいから
その暴虐な振る舞いを許してやる。
一粒の金平糖を俺様天使がやったように空へと翳してみた。
(懊悩とする思いと裏腹にただそのダイヤモンドは輝くだけ。)