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私の心はマーブル色



顔を美しくしたいと思うのは
顔が唯一、人目に四六時中
晒されているかららしい。

猿から人へと進化した我らは約7万年前ほどから
服を纏うようになったと言われている。

服を纏うことは心にも服を纏わせると
人々は言うが、もしそうだとしたら
私の心の服は一体どういう色を
しているのだろう

レッド、ブルー、イエロー、
ホワイト、バイオレット・・・










ぴぴぴぴ。

鳴った時計を止めると
眼を解すマッサージをしてから首を回した。
大分肩がこってる。


同じ姿勢でずっといたからか・・・。


適度に冷えた麦茶で喉を潤して縁側を私は見た。
縁側は俺様破廉恥の定位置か・・・。

俺様天使は縁側でごろんと寝っ転がっている。


はは、その白い肌が紫外線にやられてしまえ。


朝から散々ひっついて、
やることなすことに質問したあげく、
勉強を私がし始めると今度は惰眠ですか。


俺様天使の顔を覗き込んで見ると、
あの綺麗な深い翠色の瞳を縁取る
長くて艶やかな睫毛が風に揺れている。
ふっくらとした唇は緩やかに閉じられていて、
思わず白雪姫を思い出した。


・・・女として男に負けるって
何かむかつくんですけど。


もう一度机に置いてある時計で
時間を確認した後、
私は玄関へと足を向ける為に
俺様天使の横を通り過ぎようとした。

が、足を何かに掴まれて
その場を通り過ぎることは叶わなかった。

パッと足下に視線を向けると、
白いしなやかな手が私の足を掴んでいた。
白い手の持ち主は、にやにやと
面白そうに眼を細め私を見上げている。



「どこに行くつもりだ?」


「・・・寝てたんじゃないの?」


「さあなァ?で、行き先は?」


「・・・ご近所のおじいさんの所だけど。」


「仕方ねえから俺様も行ってやるよ。」



掴んでいた手を離し、俺様天使は身を起こし、
欠伸をもらしながら、んーと伸びをした。
そんな様子を見ながら私は、はたと考えた。

この俺様天使は性格は天使というイメージを
崩すような俺様で、破廉恥で変態である。

だがしかし、ルックスだけは良い。
本当にルックスだけは。

このまま外に行かせても良いのだろうか?
道ばたで人に会ったら騒がれないのだろうか。

じろじろと眺め回してみるが、
じゃらじゃらとしたアクセサリーに
絹のような光沢があるまるでローマ時代のように
生地を羽織っただけのような異国の服。


明らかにある種の変人である。



「・・・ねえ、他の服ないの?」


「あァ?なんか文句あんのか。」


「一言でいうなら似合ってるけど、変。」


「へッ、変だと?これだから人間は視野が狭いんだ。
まァ、仮に人間の言うようにこの服が変だとしても、
俺様が着たらその服は全てにおいて至高の物となる。」


「じゃあ腹巻き一丁も、かぼちゃパンツも、割烹着も
あんたが着たら超似合うんだぜってことね。
分かったから早くその服を着替えて。
そんな奇天烈な服着てる奴とは
隣を歩きたくない。」


「じゃ、服を俺様に献上しろ。」



私は思わずぽかんと口を開いて振り返ると、
偉そうにふんぞり返っている俺様天使が眼に入った。




(心の服の色は、まだ判らない。)