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開闢と終焉を告げる


人は生まれた時、一番初めに聞く音は、
母親の泣きじゃくる荒れた声らしい。
されども多くの場合、一番初めに聞く言葉は
泣きじゃくる音に、重なった愛しさを孕んだ優しい


「ありがとう」


なのだと言う。それならば、
一体死ぬ時は、何て言葉を最期に聞くのだろうか。

全ての始まりが、開闢が
「ありがとう」
で始まるのならば、

全ての終わり、終焉も、
「ありがとう」
で終わるのだろうか。


続けて口に出しそうになるのを私は飲み込んだ。






「人間にとっての永遠の謎だなそりゃ。
悪いが俺様は死んだことがないから答えられねえ。」



不法侵入者はこっちに背を向けたまま、すぐに答えた。


私は手を止めて、ふいにあの記憶を呼び起こす。


そっと開いている襖の向こう、もうその答えを見つけた人の枕元で、
身動きもせずに座っていた祖母。

何かを呟き、両の瞳を閉じた祖母。

縁側に座り込んで小綺麗な小世界を眺めていた私と
誰かの世界の終焉を意味するかのように
風鈴の静かな音が響いていたような気がする。

風に乗って微かに届いた、
あの祖母の呟きは一体なんだっただろうか。


そこで思考を中止させ、頭をふった。



「そう。」



興味なさげに、そう返答をすると、何かごちゃごちゃと喚いたが、
私は、ひたすらに課題と闘い始める。
・・・というかこの不法侵入者いつ家に帰るんだろう。

















手元が夕焼けの朱色の光りに照らされ、顔をあげてみると
いつの間にか、縁側に座っていた不法侵入者は何処かに消えていた。

開けっ放しにされている障子から
入り込んだ夏の風が髪を微かに揺らし、
私はシャープペンシルを机に放り投げて畳の上で大の字になった。


あくびと一緒にイグサの香りを胸一杯に吸い込む。


イグサの香りには沈静効果があるらしい。
障子の遠く向こうの夕焼け色に染められた森が、
さわさわと梢を揺らす景色に
尖っていた気持ちが和んでしまった私は寝てしまおうと思った。

蝉達の不規則なお喋り。



――久しぶりにゆっくり眠れるかも。


自然とおりた目蓋の裏側に広がった暗黒の中に私は溶けていった。
























最初は感謝のありがとう。最期は感謝のありがとう。
(人は感謝され生まれ、感謝され眠る。)