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想い出の中に生きる人が息を止める




冷蔵庫を開けると清秦おじいちゃんの
畑でとれた少しいびつな形をしていた
大きなトマトと小さなトマトが、鮮やかな赤で
存在感を主張している。

なんだか、チグハグだなあって
笑って麦茶を取り出し、戸を閉めた。






暑い。今日は果てしなく暑い。
首筋を伝う汗を乱暴に水色のタオルで拭い
保冷剤を首の後ろに充てがいなおした。

だが、保冷剤の氷が首の体温と外気によって
溶けかかっていたのか、呆気なくそれはぬるくなった。

タオルを首にかけ手元で液状になった保冷剤を
遊ばせながら溜息をついて横を見る。



「アンタは本当よくもまあ寝れるわ。」



縁側で丸くなってグースカ寝てる金の綿飴。

もう分かっているだろうが、
自称ありがたぁあい天使だ。

若干ぶすくれながら、綿飴みたいな髪を恐る恐る手で撫でると、
俺様天使の髪が想像以上に柔らかく指通りが最高だった。

絡まることを知らないってこういうことなんだなあと、
数十秒の間その柔らかさを堪能させてもらった。



――あの人の髪はもっと、ごわごわ、してたな。



私は、ぴくりとふいに跳ね上がった手を
俺様天使からゆっくりと離し、上を見上げた。



空には清々しい青色のキャンパスを
入道雲がゆっくりと形を変えながら流れ去る。

澄み渡る青と森の緑と白い雲。
三色のコントラストを太陽から零れ落ちる光が
鮮やかに彩りを添えている。

瞳を閉じると、みんみんと蝉の鳴き声が聞こえてくるし、
木の葉のざわめきとともに風が通り抜ける。

・・・だけど、やっぱりいくら待っても
聞きたいものは、聞こえてこない。




「           。」







日だまりのような、人だった。
こちらが吃驚するぐらいにお人好しで、優しくて。


ふ、と口元に嘲るような笑みを
一瞬浮かべ、小さく俯いた。



「バカ、よね。」










(もう、あえはしないのに)