「へ？」
「祭りだァ？」
「やっぱりの、知らんかったか。」
ほわりと微笑んだ清秦おじいちゃんに
一瞬こちらも、ほわりと緩んだ微笑みを作りそうに
思わずなったが、視界にちらりと入った俺様天使の
ニヤリとした笑顔を見つけてしまった。
思わずぶるりと小さく背中が震える。
や、やばい・・・。
今までの勘が告げている。
ぜってえキラキラな瞳をしてる！！
無理無理無理！！あんな瞳を見たら・・・！
く、コイツと目を合わせたら負けだ！
知らない見ない誰も居ない聞いてない、
つまり見ざる言わざる聞かざる居なざるを
心のなかで繰り返す。
祭りは雰囲気が好きだが
そうまでして行きたいとは思わない。
屋台の食べ物もなんだかんだで高くつくし・・・
というか、俺様天使と一緒に
行きたくないというのが本当のところである。
あんなキッラキラ目立つ奴といたら、
平凡な自分がなんだか悲しくなる。
周りの目が痛い。
そんなシーンを脳内で巡らせてみると
無意識にひくりと口元が引き攣った。
「ないないないない。マジでそれは無い。」
「なにがないんじゃ？」
「う、え。あ・・・独り言です。あは。」
軍手を丸めている清秦おじいちゃんに
私は日本人的笑いを零し有耶無耶化を図った。
私のこれ以上聞かないでオーラを
感じ取ったのか清秦おじいちゃんは口を閉ざしたが、
空気が読めない某アホ天使がいることを忘れていた。
脳内デリートしても良いだろうかと神に聞きたい。
「よし、人間！祭りに行くぞ！」
「忙しいから清秦おじいちゃんと行ってきなさい。」
予想道理に降ってきた台詞を
命令口調でズバっと切り捨てると、
俺様天使はム、と口をへの字にした。
いい大人がなんて子どもっぽいことしてるんだ。
まったく、そんな顔してもちっとも
可愛くないしぶさいくなだ・・・
・・・ああもうマジ顔良いと得だよな！
半眼で睨みつけると一瞬だけ
狼狽える素振りを見せてから、
俺様天使はハンと鼻で笑った後、
偉そうに胸を張った。
「俺様が決めたんだ。従え。」
「ねえ、バカなの？バカだよねアンタ？」
なにが俺様が決めたんだ、従えなのか。
訳がわからない。斜横思考は止めてもらえないだろうか。
「清秦おじいちゃんと行けば良いじゃん。
そりゃあ清秦おじいちゃんが暇だったらだけど。」
「あァ？清秦のジジイは無理だろ。余計な力を使わ。」
「何を言っておるんじゃ。」
後ろから言葉がかけられて続きを遮られた
俺様天使も私と同じように振り返ると
清秦おじいちゃんがお盆を両手で支えていた。
上には麦茶と三つのコップが用意されていた。
冷蔵庫から出されたばかりなのだろう、
露点に達して水滴ができている。
きんきんに冷えたって感じだ。
「ほれ、冷えてるぞ。」
「ありがとうございます。」
両手で受け取り口をつけると
冷い麦茶が歯を一瞬しびらせ喉を伝って
お腹に渡って行くのを神経が捉える。
コップから片手を離すと案の定、
手の平が水滴で濡れていた。
「なんの話しをしておったんじゃ？」
「祭りに行くって話しだよ。」
「いや、纏めすぎでしょそれは！
えっと、こいつが清秦おじいちゃんと
一緒に行きたいみたいで。」
「俺様に付いて行きたいの間違いだろ？」
「はいはいはい。で、どうですか？」
「すまんの、一緒に行けんのじゃ」
「ううん！こちらこそごめんなさい。」
心のうちで激しく訳もわからない
罪悪感に苛まれていると
俺様天使が関係なさげにお茶を啜ってから
端整な顔にニヤリという微笑みを浮かべのを見てしまい、
私はがっくりと肩を落として
訪れる未来を思い浮かべ顔を覆った。
（断れない私も私だよな！
って自分に突っ込んだ。）