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探した先の寂しい君と



スーパーに辿り着いた頃には、もうへとへとになった私。

子どもの「何で?どうして?」攻撃に耐える大人はこんな苦労をしているのか。
まあ、変態セクハラ破廉恥俺様天使は、純粋無垢な子どもではないが
無知な所はまったくもって同じであろう。

じろりと俺様天使を見ると、視線に気がついた俺様天使は
私の視線に気がつき、形の良い唇が面白そうに半円を描いた。


思わず、俺様天使の唇をとらえると、先ほどその唇に
指を触れられたことを思い出して、かぁああ、と頬が熱くなって
顔を隠すように俯いてスーパーまでの道を歩いた。


自動ドアをくぐり抜けると、ひんやりとした冷たい空気が
火照った身体から熱を奪うようにまとわりつく。
夏に冷房は神である。うん。


スーパーの赤色の買い物カゴを手に取り、俺様天使を見てみると、
買い物カゴの隣に置いてあるカートを興味津々に眺め回していた。

ああ、くる、くるぞ!例のあれが!!
思わず買い物カゴを握る手に力を込めた。



「人間!これ何だ!?」


「・・・ベビーカーみたいなもの。物を運ぶもの。」



ほらきた、例の「これ何だ」攻撃。

面倒くさそうに答えたが、律儀に教えてあげた私は偉いと思う。
その返答に、きらきらと瞳を輝かせていた俺様天使は
輝きを失わせた上に、つまらなさそうに言いやがった。



「ああ、ガキを運ぶアレか。」



この野郎、百科事典でも頭にぶつけてやろうか。
しかも、なぜ自動ドアに吃驚しなかったのだ。

ぐらりと、頭を擡げた感情を理性で制し、足を進めると
野菜売り場が一番最初のコーナーとなっていた。

夏の野菜である赤く熟れたトマトを筆頭に、
キャベツや胡瓜などを手に取って眺めたあと、
手早く買い物カゴに入れる。

私の横で、従業員が申し訳ないように
段ボールに詰められた野菜を次々に山に盛っていった。



・・・そういえば、「これ何だ」攻撃がいつの間にか止んでいる。
絶対くると思っていたんだけど。



そう思って顔をあげて左右を見てみるが俺様天使の姿が見えない。


・・・・・・ちょっと待て。
え、なに、え、え、ちょ、はあ!?
どこに行ったわけ!?あいつ本当に子どもな訳!?
迷子!?迷子だよねこれって!!
眼を離したスキに迷子って何!!!!


ちなみに、このスーパーは三階建ての一階の奧にある。



私は、買い物カゴの中の艶々とした野菜達を呆然と見下ろしながら
思考をフル回転させていたが、ふっと口角をつり上げ、
手近にあったモヤシを買い物カゴの中に放りこんだ。



ちなみに、私が辿り着いた答えは
俺様天使がいない方が静かに、そして平和な買い物ができる。
だった。ちなみに買い物を終えた後に、
迷子センターにでも行って呼び出せば良い。
迷子なんだねお兄ちゃんって小さい子どもに
笑われるが良いさ。一端の恥を知りなさい。



















レジでお金を払ってから、二つの買い物袋をぶら下げ
私は二階にある迷子センターと書かれたコーナーの手前で葛藤していた。

さっきは確かに、呼び出されて恥ずかしがれと思ったのだが、
これ、何気に呼び出す方も恥ずかしいのだ。


従業員の不思議がる視線が痛い。
諦めたように私はいそいそと背を向けて、
スーパーの入り口へと移動することにした。
入り口のベンチで待っていた方が賢明なような気がしたからだ。


二階から一階に下りるため、エスカレーターで下っていると
ふと、エスカレーター横のベンチに、ふわふわとした金髪を見つけた。
また迷子になられたら困ると私は、エスカレーターを駆け下りて
ふわふわの金髪を罵りたくなったが、
俺様天使が買い物客を、こちらが驚くくらい睨み付けて
いたのに気がつき口をつぐんだ。

ふと、私の存在に気がつき、俺様天使は瞠目した。
その瞳には、先ほどの鋭い光が嘘のように霧散し、
心の底から安堵したような柔らかい光が灯っている。

言いしれぬ何かを私は感じて
どうすれば良いのか分からなくなって木偶の坊のように
呆然としてしまった。



「・・・人間、帰るぞ。」



いつもは自信に満ちあふれたその声が、掠れるような音を出す。
伏せられた長い睫毛が、堪えるように震えているのに気がついた。


――・・・ああ、そうか。


私は思わず買い物袋を左手に纏めて持ち、右手で俺様天使の左手を握った。

ぴくりと身を竦ませ恐る恐ると顔をあげた俺様天使に
安心させるように微笑んでみせる。



「こうしてれば、迷子にならないよ。」



繋がれた掌の暖かさとともに
脳裏に、優しく笑う彼が一瞬だけ過ぎった。
















「迷子になった時って、酷く不安だよね。」


不安?とあの人が聞き返すと私は小さく頷く。
往来を繰り返す見知らぬ沢山の人たちを眺める私を
あの人が覗き込むと、私はゆるりと笑った。



迷子になると、自分が「ひとり」だということに気がつくの。
なんていうんだろう、一人で買い物に行くときは全く気にならないんだけど、
誰かと一緒にいて、急にその人がいなくなっちゃって、
よく分からないけど、急に私に見える世界が
私を異物だといっているような感じがするの。



何て言えば良いか、分からないや。
そういって曖昧に笑った私に、あの人は少しの間、押し黙った。

そして、手を伸ばして私の手を掴んだ。
私は、不思議に思いあの人を見上げる。



「こうしてれば、迷子にならないよ。」



繋がれた手を持ち上げ、私に見せると
あの人は、優しく眼を細め、柔らかく微笑みかけた。







「帰ろう。帰って、清秦おじいちゃんに貰ったスイカ、一緒に食べよう。」



















(・・・ふっ、仕方無えから人間に俺様の手を握らせてやる!)

(あー、はいはい。殴って良い?)