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それもまた定め



それは朝、冷蔵庫を開けた時から運命付けられていたのだ。



「材料がない・・・。」















昼下がり、私は山から下りて街へと向かった。
そう、なぜか。



「おい人間!あのでっけえ動いてる固まり何だよ!?
しかも赤青黄のあのランプは一体どういう意味があんだ!?
つーか、アレは何だアレ!」



なぜか、言動が田舎者と同じである俺様天使と共に。


ああー、と両目を思わず一瞬手で覆い隠して
現実逃避を図ったが俺様天使の急かすような声に
現実を見つめることを嫌々ながら決定した。



「あれは車。人を乗せて運ぶの。
ちなみにぶつかったら基本死ぬから。
それであのランプは信号。車や人を規制するもの。
青の時だけ渡って良しのサインだから。
それで、アレは。」



そんな問答を繰り返し続けた私はスーパー近くに辿りつく頃には
よろよろになっていた。いつまで喋りらせるつもりだこの俺様は!!


少し前をきょろきょろしながら歩いている俺様天使の背中を
半ば半眼で睨み付けたが当の本人は気がつく様子もない。


ああ、眼からビームって出ないのかな。


そんなあほらしいことまで考えてしまって、自分の疲労は相当なものだと
実感し、スーパーに着く前にどこかで休もうと周りを見回してみると、
ちょうど可愛らしいカフェを見つけた。



「ねえ。」


「あれなんであんなに早く走るんだよ。一体何の乗り物だ?」


「バイク。車と自転車を混ぜた感じのもの。それよりもさ。」


「あのガキが持ってる透明の入れ物はなんだ?」


「ペットボトル。硝子を柔らかくしたような入れ物。というか聞いてる?」


「だあああ!うっせえなあのバイクっつうやつは!!
何で何体も一緒に音たてながら走っていってんだ!!」


「・・・・・・ちょっと。」


「お、おい人間!女が箱入ってるぞ!?」


「・・・・・・テレビ。箱に入ってるわけじゃない。
というか聞けっての、この性格破滅者。」


「箱に入ってないっつうことは・・・
映しの鏡みたいなもんか。じゃあアレはなんだ?」


「・・・・・・・・・・。」


「だからアレだっつってんだろ人間。」



ひくりと口角を引き攣らせ黙りを決めた私に
俺様天使はイライラしながらも振り返らずに聞いてくる。


肩にかけたバックでその頭殴ってやろうか?


バックを手に持ち直し、スイングするように後ろにふり下げたところで
ようやく馬鹿空気読めない変態巫山戯るな俺様天使が振り返った。



「さっさと答えろ聞いてんのか人間。」



思わず振りかぶったバックで俺様を軽く吹っ飛ばしたのは悪くないだろう。
何が聞いてんのか人間だ。聞いてないのはアンタの方だろうが。


バックをぶつけられた俺様天使はぶつかった頭を手で押さえながら
ギリギリと歯ぎしりする勢いで私を睨み付けてきた。



「何すんだ人間ごときが!!」


「私の話を聞かなかったアンタが悪いんでしょうが!!
というか誰がここまで連れてきてあげたと思ってるわけ!?」


「あァ?誰がここまで付いてきてやってやがると思ってんだ。」



自分こそ正しい、自分が一番偉いとでもいうように
ふんぞり返ってそう声に出した俺様天使の髪が全て抜ければ良いのに・・・!
禿げろ!禿げまるだしになれこん畜生!!!


ムカっとしたが、取りあえず今は休みたい。


私は俺様天使にこっち来て、と行ってカフェに無理矢理押し込んだ。
扉に鈴か何かが付いていたようで、扉を潜りぬけると
チリンと可愛らしい音が響いた。

ウェイトレスの女の人が駆け寄ってくる。
ウェイトレスのお決まり文句の「何名様ですか」に答える為に
脳内で「二人です」という言葉を瞬時に作ったが中々お決まり文句が降ってこない。

不思議に思った私が置いてあったメニューから視線を外し
ウェイトレスの方を見てみると視線が全く動いていなかった。
その視線を追ってみると、金髪のふわふわな髪にたどり着く。

俺様天使の後ろに立っていた私は、ああ、と気がついた。
ここから見れば、髪に辿り着くが、前から見れば顔につく。


確かに変態だろうと馬鹿だろうと破廉恥だろうと
人の話聞かない性格破滅者だろうと無知であろうと俺様であろうと

こいつ、顔だけは良い。

白い肌にスッと通った鼻。 宝石を填めこんだような翠色瞳を縁取るような長い睫毛。
艶やかな唇は微笑みを絶えず浮かべており、
甘い綿菓子のようなふわふわな金の髪が光に反射するように煌めいている。

しかも今日は清秦おじいちゃんのお孫さんの服を借りている。
さらに言うなれば、お孫さんのセンスは抜群である。
うん。センス良いなあ・・・。


しかし、顔が良いだけではダメなんだよウエイトレス。
こいつ、顔は良くても性格最悪だから。


ふう、と溜息を吐いてから、ウエイトレスに声をかけた。


「あの、すみません?」


「・・・あ!も、申し訳ありません。何名様ですか?」



二名です。そう答えるとウエイトレスは少しわたわたした様子で
テーブル席へと連れていってくれた。
オーダーは後でお願いしますと答えると、少し残念そうな顔をした後に
俺様天使の方を名残惜しそうに見ながら去っていった。

メニューを開くと俺様天使の視線を感じて
顔を上げてみるとニヤニヤ顔のヤツが居た。
どうせしょうもないことを言うに違いない。



「あの女、俺様に見惚れてやがったな。」


「・・・そうだね。」



短くそう返し、コップの中の水に口をつけた。
氷によって冷やされた水が喉を通り、身体を潤うイメージが
ふと脳裏に浮かんだ。私の身体は今まで砂漠だったのだろう。
この一滴一滴が大地を潤すがごとく浸み渡る。



「あ、このトマトスパゲッティーとプリンカフェ一つずつお願いします。」


「かしこまりました。プリンカフェの方はいつお持ち致しましょうか?」


「食後でお願いします。」