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星が眠って海へと還る




何等分にか切ったスイカを二人縁側に腰掛けながら
赤く熟れ、溢れ出る甘い果汁を零さないようにして
二人して静かにぱくつく。

黒い種をゴミ箱に入れ、そっと横を見てみると
俺様天使は黒い種まで飲み込んでいるようで、思わずぎょっとして
俺様天使の膝を数回叩いた。



「ちょ!種は食べなくて良いんだよ?」


「食えんだろ?」


「た、食べられることは確かにそうだけどさ!」


「んなら構うんじゃねえよ。どうせ食ったって俺様は消化しねえんだからな。」


「消化しないってつまり、食べても食べなくても良いってこと?」


「あァ。栄養なんてもんは俺様には必要ねえからな。」


「へえ。」



そこで私は一度会話を止めて、スイカに齧り付いた。

食べなくても良い、とは一体どんな気持ちなんだろう。
食欲というのは睡眠と同じて動物が生まれ持っている本能。
動物は本能に従い、食べる為に生きるのではなく、生きる為に食べる。
他の命を奪って、ただ生きる為に。



「そういえば、さっきスイカを卵だと思ってた時に、
殺すなみたいなこと言ってたね。」



小首を無意識に傾けると、俺様天使が小さく舌打ちを響かせた。
忌々しそうに眼を細め、睨み付けた方へ私も視線を向けてみると、
澄んだ森を照らすように落ちてきそうな星空が視界一杯に広がった。

そんな光り輝く星空を淡々と眺めていたら、ふいに俺様天使がこちらを
見ていることに気がつき、視線をずらすと、
俺様天使は何とも言い難い表情を浮かべていた。



「・・・人間は、星空が嫌いなのか?」






一瞬、喉に何かが詰まったような感覚に襲われた。


だけど私は俺様天使の問いを笑って流そうと、口角をつり上げたが、
無意識に顔を隠すようにして俯き、瞳から全ての景色を隔絶した。
昔の情景が瞼の裏に否応なしに映し出されるのに気がついていながら。

さらりと、髪が肩を滑っていく音がした。















「あ、上を見てごらん、綺麗な星空だよ。」


「わあ!本当だ、凄い綺麗!!
・・・うう、親には一応連絡はしたけど説教されないかな・・・。」


「あはは、もしされたらそれは仕方ないよ。
ご両親も心配してるだろうし。
そういえば小さい頃、死んだら星になるってよく言われたよね。」


「あはは、そうそう!よく言われた。」


「・・・じゃあもし僕がさ。」


「うん?」


「死んだら、星になって君を照らして、見守っててあげるよ。
ぷ、ちょっと何て顔してるの。
・・・大丈夫だよ。僕は君と幸せな家族を作って、
孫と曾孫を君と共にこの腕に抱いて、大往生するって決めてるから。」
















俺様天使は、髪で見えなくなった表情を伺うように
黙って見ていたが、ふと、隣に腰掛ける者の掌の白さに気がついた。
強く握りしめられた掌に更に力が込められる。
ふいに、ふるり、と黒い睫毛が揺れた。




「・・・・・・、嫌い。」












「星空なんて、大嫌い。」






















(星が光輝いているのは、自分の命を削ってるからなんでしょう?
なんて酷い。二度も、死を迎えさせるだなんて。)