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柔らかな戸惑い









小さなこども達が青の草原を走り回り
ぽてんと誰かが転び誰かがそれを笑う

「楽しそうね」

麦藁帽子を軽く押さえて眩しそうに女は眼を細め微笑む

「子供が本来持ってる遊ぶ力だね」

その女に寄り添うように男がゆるゆると笑うと女も再度微笑む

「知ってるかい?
人間が笑う動物に選ばれたのは
あまりにも辛い事が多いからなんだって。
人は、終わりというものに気付いてしまったからね。」

「・・・恋すら、辛い?」

男はきょとんとした顔を見せまた笑う。

「君には僕が辛そうに見えるのかい?」

麦藁帽子に優しい指先を伸ばし女の額に小さく唇をおとした。
そして照れたように男が顔を背けると
それに気がついた女は鈴のような声で笑った。

本当に、周りの大人から見たら
小さくて甘酸っぱくてバカみたいな恋。
だけどね、だけど、本当に僕は君が大事なんだよ。

人間は終わりに気がついてしまったけれど、
そのかわりに君の柔らかくて暖かい笑顔を見るたびに、
それでも満更でもないって思っちゃうんだよ。


だからさ、せめて、せめて
終わりが来るまで一緒にいよう。


(だけどやっぱり、この恋には永遠を望んでしまう。)













「笑うんじゃねえ人間!」


白陶器のような肌を若干朱に染め、きゃんきゃんと吠える
俺様天使に腹がまたよじれそうになったが
腹に力を入れて幾度か死にそうな感じで深呼吸をしたら
笑いによるひくつきがとまった。スイカを下にそっと置く代わりに
タライを手に取り俺様天使の元へと行った。



「はい、タライに水かけて。」



不機嫌さを表すように雑にタライに水をかけ、私が拭くという作業を何回かした後、
綺麗になったタライに水を張り、スイカを中にそっと沈めた。
スイカの重さに水がその分だけ溢れ出て、渇いた土が湿り気を帯びた。



「何やってんだ?」


「こうやって冷やしておくの。風流でしょ?」



興味津々にタライを覗き込む俺様天使を目に入れてから
お祭りとかに連れてったら面白いんだろうなコイツ。
だなんて思いながらサンダルを脱いで縁側へと上がった。

一度、びしょぬれの俺様天使を振り返ってから急ぎ気味に早足で廊下を蹴る。
風呂場の木製の引き戸をがらりと開けてから、棚へと手を伸ばし
一番上に仕舞っておいた柳行李の中の物を一つ拝借して縁側へと戻った。




タライの中のスイカを軽く叩いていた俺様天使に私はわざわざ持ってきたタオルを
ぶん投げようとしたが、途中で落下するのは目に見えていたから
手招きをして近づいてきた俺様天使に嫌がらせの如く覆い被せた。

「ぶふぇ」だか「おふぇ」だか良くわからない声にニンマリと隠れて笑った。
ちなみにさっきから嫌がらせをしまくっているのは別に
金平糖をとられたという食べ物の恨みではない、決してない、断じてない。



「タオルで拭いてから上がってね。」


「あー・・・、あァ。」



一瞬口籠もるが、結局言葉にしなかった俺様天使に
私は首を傾げたが、たいして気にせずに足を廓へと向けた。



「精霊使えばこんなもんスグ乾くのにな。」



誰も居なくなった庭先で、ポフンとふかふかのタオルに俺様天使が顔をうずめた。