10

平行線からの交錯



あなたは、今なにを根拠にソレを信じているの?
その根拠は眼に見えるもの?それとも眼に見えないもの?

眼に見えないものを信じるって愚かなことかな。
眼に見えないものを信じるって変なことかな。

眼に見えないものを信じて、裏切られて、それみたことかって周りは言うけど
そんなにも眼に見えないものを信じるって悪いことなのかな。

だって、仕方ないじゃないか、私もあなたも眼には見えるけど
何を考えて何を思って何を感じているのか見えないんだもの
心の中は見えないんだもの。

眼に見えないからこそ信じてみたい。
それじゃあダメなの?

























寄り道もせず古屋に帰った時には
陽が沈みかけて世界を夕陽色に染めていた。

私は俺様天使にスイカを持っているように言付けた後、
縁側を通り、古い倉庫の前で足を止めた。
建付が悪くなっているのか、扉が中々スムーズに開かない。
両手を使ってようやく開けると、ぎしりと扉が叫んだ。

薄暗い中を夕陽の光を頼りに目当ての物を探して
視線を彷徨わせたが中々これが見つからない。
仕方無く諦め種を返すと、俺様天使がスイカを手に縁側から顔を出していた。



「・・・スイカ置いたら?」


「人間が持ってろって言ったんだろうが。」



いや、確かにそうは言ったけど、そういう意味じゃないんだけど。
スイカを我が子のように大事そうに抱いている俺様天使に
私が眉に皺を寄せてると、俺様天使は倉庫に近づいて来た。



「何やってんだ?」


「ちょっと捜し物。でも暗くて見つからなかったの。」


「へえ。んじゃァほらよ。」



俺様天使はスイカを片手に持ち直した。

人差し指で宙にクルリと円を描くと、
段々と白い靄が渦を巻くように指近くに纏わり始めた。
そしてその指でパチンと一度弾いたかと思ったら
優しい光が倉庫の中を照らした。
私が思わず、へ?と間の抜けた声を出すと俺様天使がクク、と喉で笑った。
その笑いにムッとして見上げると俺様天使が私の額目掛けてチョップを喰らわしてきた。



「ブッサイクな顔だな。」


「うっさい!アンタが異常なだけでしょ!」


「僻みか?」


「・・・・・・で?何この光。」



意図的にスルーしたのに気がつかないのか、
俺様天使は、そのまま素直に言葉を紡いだ。



「精霊だ。」


「・・・は?」


「あァ?だから精霊だって言ってんだろうが。」


「ごめん、なに?」


「ふざけてんじゃねえぞ人間。」


「だって精霊って!精霊って何!なんでそんなにもファンタジーなわけ!」


「ハッ、これだから人間はいけねえな。
眼に見えるものが全てじゃねえんだ。人間は自分が見えてねえからって
他人のそれまでも否定すんのか?まったく人間はバカまるだしだな。」


「バカはアンタでしょうが!というか天使だとか精霊だとか
もう本当なに、なんでそんな・・・ああもう良い、うん、良いよ。」



私は取り敢えずもう考えるのを放置して無理矢理自分を納得させることにした。

だって本当に光ってるんだから!!
眼に見えないものは信じない、それが人間だけど眼に見えちゃったんだもん。
流石に非科学的でも認めざるを得ないでしょうが。

精霊だかなんかの光を借りて、私は捜し物を見つけた。
上から覗き込んでも分かるくらい埃が被っている。
意を決してその捜し物、木製のタライを引っ張り出した。

よっこらせと地に置き、
倉庫を出てから両手を見てみると埃で灰色になっていた。



「ありがと、見つかった。」


「ん。お前らもご苦労。」



俺様天使が光に向かってそう告げると、優しい光が霧散して消えていった。
思わず凄いと呟いたが、頭を振りタライへと意識を戻した。

さて、これ洗わなきゃ・・・。



「ね、あそこにある水色の棒みたいなの見える?」


「あれか?」


「そ、それを持って前に見せた蛇口ひねってごらん?」



スイカは私に渡してね。と言ってスイカを受け取ると、
俺様天使は水色の、つまりホースを手に取り、 中央に開いている穴を不思議そうに覗き込みながら蛇口をひねった。



「ぶっへえ!」


「ぷっ、こ、こ、れがみ、水も滴る、ひっ、良いおと、こってやつ!?」



変な声をあげて飛び上がった俺様天使の様子を見て
私は必死に笑いを堪えるようにスイカを持った手で腹を押さえた。
予想的中である。いいざまだ。 俺様天使はホースから噴水のように溢れ出る水を呆然と眺めている。
ボタボタと髪から大量に滴り落ちる水が俺様天使の端整な肌を伝っていった。



「びびった・・・。」



呆然とした顔でぽつりと呟いた俺様天使の一言が
その一言を現実に物語っているように若干声音が高めだったのに気がついた私は
とうとう我慢しきれずに大爆笑を開始した。
















信じてみたい。本当は見えないものを信じてみたい。
(そんなことを想ってみても結局私はソレを疑ってしまう)