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虚ろなる空間にて


「大勢の人が死にました」
 
 
だなんて、自然の破壊者が減って良いことだと私は思う。
その反面、命を尊んでいるのもまた事実。


ああ、なんというパラドックス。


トーストを囓りながら
ボタンを押すとテレビの画面が暗黒を映し
じんわりと苦い味が口の中に広がった。


その日はちょうど夏休み最初の夏の真夜中のことだった。


祖父母が前に住んでいた古家で過ごすことになった私は、
夏休み初日に宿題を少しでも早く終わらせ、
復習をしなければという一種の責任感を背負いながら
青い数学のノートをあけた。


しかし、あまりにも多い問題。


大きく溜息と悪態をつき即座に諦め、
飛んでいる小さな羽虫の隙をついて机におかれた少し古びて薄く埃を被っている
電気スタンドのスイッチを回そうと手を伸ばす。


そして私は見つけた。


開けていた窓の桟に
満月の光の雫を纏って座っていたそれを。


そよ風がそれの髪をふわふわと揺らす。
トルマリンのような碧色の瞳を猫のように細めると、
うっすらと笑みを浮かべ、口を開いた。



「よう、人間。俺様は天使だ。
少しの間だけこの世界の此処で匿え。
ちなみに人間には拒否権は無え。」


「・・・・・・。」



―――・・・取りあえず、すぐにカーテンを閉めた。


私はどうやら疲れているようだ。
昨日終業式の後に慌ててこちらに来る準備して
不便な古家で生活をし始めたからに違いない。


・・・ついに幻覚とやらを見るようになったか。


くらりとする身体を必死に押しとどめ手で目をこすった。
それから5分くらい経っただろうか、
いざとなったら警察を呼ぼうと変な意を決した私は、
カーテンの端を掴んで勢いよく開けてみた。




ざあっとレールがこすれる音がしていつでも逃げれるようにと一歩足を下げた。



―――だけど。

「・・・あれ。」



ただ夏の夜にふさわしい光景が映っていただけだった。




ああ、これが白昼夢というやつか。

いやに納得してタオルケットの中に頭ごと私は潜り込み
身体をまるめるようにして眠った。













のちになって、なぜこの時きちんと
警察を呼ばなかったんだろうと後悔することになるなんて
当時の私には知る由もなかった。