「こら動かない!あと少しで終わるから。」
私は横に置いておいた帯を右手で持ち上げて
俺様天使の背中に腕を回した。
「ん、しょっと。」
「・・・・・・。」
もそもそと片側の帯を掴もうとしてる私を
俺様天使は見下ろしながら少し考える素振りをし、
瞬間、かばちょ。
「ちょ、なにしてんのうざい!」
俺様天使に抱き付かれた私は
中腰という微妙な状態から背中と腰に手を回され
アイツの胸あたりに顔を押し付けられた。
というか抱き付かれた。
はだけた着流しからは
白い肌が惜しみなく外に晒されている。
信じられないほどにキメが細かい。
ありえん。というか、ね!
そこで私は、はち切れんばかりに怒声をあげた。
「暑いからいい加減離れろ!!」
じたばたと腕の中で暴れるが、解放されず
キッと俺様天使を睨みつけようと顔をあげたら、
肩口に顔を押し付けられた。
頬に柔らかい金髪があたる。
「人の話聞いてた?暑いんだってば。」
呆れたように言い放つがアイツは小さく首を振って
「風。」と一度だけ呟き、ぎゅうと力を込めた。
そんな珍しい姿に眼を白黒させて
視界に移る金の綿飴を凝視した。
一体なにがどうなってこうなった?
俺様不遜馬鹿破廉恥自己中自愛ナルシーな
アイツはどこに消えた?
昨日変な物を食べただろうか?
いや、私と同じ物を食べたから
それはないと思われる。それとも何かと
化学反応でも起こしたのか!?
「どうしたの。」
いつもより優しく問いかけてみても
俺様天使は何の返事もせず問いかけは
虚しく宙へ消えた。
「嫌なことでもあった?痛い所があるの?
清秦おじいちゃんと喧嘩でもした?」
これらも無言で返される。
いつもと違う俺様天使の様子に、自分の中で
困惑と不安がスポンジが水を吸うように
染みわたっていくのが分かる。
無理矢理聞き出すのは野暮だと理解している。
実際あの人がいなくなった時、
親も友達も心配そうな顔をしてあれこれと
どうにかしようとしてくれ・・・、
いやこの話しは今はどうでもよい。
話を元に戻すが、たとえ聞き出したとしても
その何かを私がどうにかできるものかも分からない。
あの自信に溢れた俺様天使がこうにもなったのだ。
簡単なことではこうはならない。
物質的な根拠などないが、今まで日夜一緒にいたのだ、
分からない筈がないだろう。
ふう、と音もなく息を吐いて、帯から両手を離し
泣いているかのような俺様天使の背中に腕をまわした。
(未だに肩口は乾いたままだ)