「小姫って呼ぶことにするか!」
それは、何も知らなかった幼い頃の遠い記憶。
「なりませぬ。行かないで下さい。」
裾を握りしめて、縋りゆく小さな掌。
「・・・お行き。」
もう一度、戻って来ることなんて考えてもいなかった。
「ここが、京の都。」
踏みしめた土地の感触、風の匂い。そして人々の生活。
「隣良いですか?」
「京都守護職会津中将松平容保様御預―」
新たな出会いに、思わぬ再会。
「この道より我を生かす道なし。
己が信じる道ならば貫き通す。それが武士だ。」
「あいきゃんどぅいっと、じゃき!」
留まることさえ忘れた小さな背中。
「俺たちの道を邪魔するなら斬る。
斬られたくなきゃあ、首を突っ込まないことだな。」
三叉路に立ったら最後、もう交わることさえ許されない。
「僕が、傷つけた。」
未完成なまま、生きていく大切な人たち。
「お、来たな!!こっちだこっち!!」
「総司は人に教えるのに向いてない、うん。」
ゆらりと儚く燃えて、消えゆく灯火。
「これどうぞ。ふふ、友達の印、なんでしょうかね。」
小さな掌から零れていく大事な何か。
「誰だ今顔狙ったヤツ!!!」
「あー、自分です。」
顔に浮かぶ悪戯な笑顔。
「これが、戦争だ。・・・もう誰も戻ってこない。」
「分かってる!そんなことは分かってる!!
―けどッ、だけど心がついていかないの!!」
「そんなこと言ったってもう仕方がないじゃないか!!!
現に彼は、か、れは、―っ・・・彼はもう死んだんだ!!!」
他人事のように、流れゆく涙を眺めていた。
「仇を討たせてください。
あなたをっ、あなたたちを憎ませてください、
ッお願いだから!!」
殺してやろうと、心の底から思うのに最後の一歩が
どうしてもふみだせない。
「誰かの正義は、誰かにとって何になるのかな。」
刀を向け合えば、共に生きる世界が望めない。
たとえ友であろうと袂を別てば刀の切っ先を喉元へと突きつける。
どちらが必然的に滅びる運命。
―・・・それが幕末であり、武士の世であった。
「みんなが生きている未来を望んじゃ、いけないんですか。」
晴れ渡る空を見上げて、ひとり、泣いた。