「坂本ォオ!!」
「待ちやがれえぇええ!!」
「もう逃げれねえぜ?観念しやがれ!」
「つうか、逃がす気もねえしな。」
アウラはぽかんとしつつも現時点で、
自分は坂本という名ではないし、
それならばこの隣にいる奴以外に他に誰がいる?
とゆっくりと群青色の男を見ると、
男はニカリと場違いのように笑った。
空気を読めない男なのだろうか、それとも単に
和ませようとしてくれたのか良く分からないが、
この男が坂本というのだろうと悟った。
「おうおう、モテる男は辛いじゃき。」
坂本は二人に見えないようにアウラにウインクを飛ばすと、
演技がかったように肩を竦めた。
「テメエがモテるだと?
おい、新八世の中の女はどうなってんだ?」
「知るか。女の連中に聞け。つうか、左之助ぇ!
今思えばお前も女にモテてるよなあ?
はッ、わっけ分かんねえ世の中になったもんだ。」
軽い応酬を尻目に、坂本が一歩足を下げた瞬間、
アウラの目の前を浅葱色が横切り、瞬きする間も無く、
きいんと高い金属音が響いた。
坂本の、のど仏が大きく上下した。
「さすが永倉新八じゃ、の!!
お前さんの間合いはどうなっちょる!?」
「だーかーら言ったよなあ?
逃がす気もねえってな。坂本竜馬、さん?」
群青色の褐色の肌の持ち主、坂本竜馬の台詞に
浅葱色を身に纏っていた片方の永倉新八は、
振り下ろした刀に体重をかけ口角を吊り上げた。
太陽に反射した刀の鋭い光に目を細め、
竜馬は咄嗟に小柄で受け止めていた。
だが流石に耐えきれなくなり小柄を
横に滑らせ宙へ放り出し脇差に手をかけ後ろへ数歩逃げる。
それを追うように突き出された切っ先を避けると同時に
竜馬の一本だけ長い髪がゆらりと揺れた。
流れるような殺し合いにアウラはどうするべきかと思案する。
分が悪そうな竜馬を見捨てても良いが、
人が目の前にで死にそうになってるのを見捨てておけるくらい
腐っているとは思いたくない。
だが、浅葱色の連中と直接対峙することによるメリットはなにも無い。
しかもこの小袖とやらは動きにくいことこの上ない。
キャーッ!とでも叫んで気を反らせば良いのか?
あ、とりあえず害は無いよと震えれば良いのか。
・・・・・・なんだかもう、めんどくさいねぇ。
そんなことを思いながらも目の前の光景から
眼をそらせずにいると浅葱色が視界を遮った。
ハッとして顔をあげると、左之助と呼ばれていた男が
背を向けて守るかのように立っており、
こちらをチラりと振り向き、小さく苦笑いを零した。
「女は見るもんじゃねえな。」
そう言ってまた前を向いた左之助に、
アウラは思い切り顔をしかめた。
このように扱われたことが少ないアウラにとって
正直、体中がむずむずして仕方無いのだ。
だが、それでも動き回る彼らの光景から、
左之助が全て遮断できるわけでなく、アウラの瞳は彼らの姿を捉えた。
早く鋭く一瞬で終わらせる風の如き技。
風をしなやかに流す柳の如く技。
寸撃を止めたと思えば次の瞬間、一刀を繰り出す。
そこには何の荒々しさは滲み出ず、ただ水の流れのように広がっている。
瞬きするその間すら、まるで。
(まるで、死神の嗤いのよう。)