クレインは、ぽたぽたと自分の髪から流れ落ちてくる水滴を鬱陶しく思いながらも、
バスローブ姿でシャワールームを出ると、
悠々自適にソファーに寝転がっているアウラに眼を瞬かせた。
だが諦めたように肩をすくめ、
椅子にかけておいたタオルで髪まとわる水を拭った。
「鍵はかけておいた筈だが?」
「そうだったねぇ。」
「・・・ピッキングの技術を変な所で使うな。」
使用済みのタオルをアウラの顔の上に落とそうとすると
見事狙い通りに命中してアウラは奇声をあげた。
横目でそんな様子を捉えた後、クレインは自身の肩より少し長い髪を高いところで一つにくくった。
「さすがにこうも長くなると鬱陶しいな。」
「そろそろイョ君に切ってもらったらどうだい?」
「俺もそう思うが・・・。それより今日は何のようだ?」
クレインは、はずしておいた眼鏡をかけ、
チェストの上に置いてあった小さな硝子細工の蓋を開けた。
「支部から何か情報はきたかい?」
「そう大したことはないな・・・。」
「へ〜。あ、これ渡しておくよ。今回の用事はこれなんだよねぇ。」
チョコを囓っているクレインの手の上に小さな箱を
ぽとりと落とすと、訝しげに顔を見られた。
「何だこれは?」
「眠れる姫の本物。」
「案外あっさり手に入ったな。」
「ウェルコート卿が執着してないみたいでねぇ。」
「かわりにマフィアがご執着ということか。」
自分には関係ないとでも言うように、さらりと言ったクレインに、
そのせいで仕事が大幅に増えてしまったアウラは
思わずポーチに入っていたレモンをクレインの顔面に投げつけた。