銃口の先の闇夜に、光が零れ落ちる。
アウラは、純白の銃をホルダーにしまい込み、
風に靡く髪を押さえて瞳を閉じた。
さあ、君はどうする?
若きアンダーボス、いや、大英帝国女王陛下の番犬ジャック
ジャックとキュンメルは光が現れた付近にたどり着いた。
ジャックは、それとなく周囲に視線を向けていたが
眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに舌打ちをした。
「くそ、あいつトンズラしやがったな。」
「アイツって誰っすか?」
「おまえの鼻も利かねぇな。」
「??」
ハ、と嘲笑を浮かべた先にジャックは、
とある家の扉のドアノブの部分に目が止まった。
ドアノブの部分に何かが張り付けられている。
「何だあれは・・・。」
ジャックが近づいてみると、それは黒い紙であった。
腕を伸ばし、手にとって裏返すと、
大きな鎌を持った死神姿が印刷されていた。
これはただの黒い紙じゃない、
トランプのジョーカーだ。
キュンメルは前に回り込みジャックの手元に目を留めてきょとんとした後、
眼を見開いてビシイッと指さし声をあらげた。
「ななな!?なんでそれがここにあるんすか!!」
ジャックは慌てふためくキュンメルをからかってやろうと口角をつり上げた。
「キュンメルちゃんはこれが何か分かってるようだなぁ?」
「いッ。」
キュンメルは思わず舌をかんでしまい、苦々しい表情を顔に浮かべた。
だってこのトランプが師匠のしたことだってバレたら、
目を付けられるかもしれないんっすよ!?よりにもよってこんな男に!
一度目をつぶり、自身を落ち着かせ、素知らぬ顔をした。
「知らないっすよ、ジャックは分かるんすか?」
「アウラの目印だろう。」
けろりとジャックがアウラの名前を出すと、
目が飛び出そうになるくらいキュンメルは唖然とした。
「何でテメェが知ってんだ!
つうか師匠の名を呼び捨てにするんじゃねぇえええ!!」
「キュンメルちゃんよ、素が出てるぜ?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「いやいやいや、それは横に置いておくとして、
何でジャックが師匠を知ってるんすか。
というか何で師匠のトランプがここに?」
「そんなもん、オレとアウラが知り合いだからにきまってんじゃねえか。
今回、アイツに依頼したんだよ。」
「!!」
キュンメルが新事実に愕然としている中、
ジャックはジョーカーのトランプをひらひらとさせた後、
外套のポケットにしまい込んだ。
「つうか、何でアウラは、ここに行き着いたんだ?
切り裂きがいつどこに来るなんて分からねえはずなのに・・・。」
まるで、最初から分かってたみたいだな。
まあいい。切り裂きの居場所が分かったんだ。
あとは切り裂きを泳がせ、監視し、
最終的な処分を下す。それで終わりだ。
ジャックはトランプから手を離した。
「あれ、あそこにいるのトムじゃないっすか?」
「ああ?そんな訳ねえだろ。あのチビがこんな時間まで起きてる理由が・・・。」
ジャックが眼を細めて屋敷の方を眺めると
扉の前で、ちょこんとしゃがみこんでいる小さな影を捉えた。
「ほらやっぱりトムですって。」
「何やってんだあいつは!」
歩むスピードを速めると、小さな影が足音に気づきハッと顔をあげた。
鼻や頬が赤らんでる様子を見ると
この寒空の下、長い間一人で待っていたのだろう。
トムは慌てて立ち上がり、二人に向かって頭を下げる。
ジャックが上から小さなトムを見下ろし、手を伸ばした為に
トムは反射的に眼を瞑ったが、頬に触れた暖かな手に瞳をゆるゆるとあける。
「冷てえな。テメェが風邪ひいたら誰が面倒みるんだ、このチビが。」
スッと手をトムの頬から離し、吐き捨てるように言うとジャックは
振り返ることもせずに屋敷に入っていった。
キュンメルは、きょとんとした顔をすると、
次第に面白そうなニヤニヤとした笑みが広がっていく。
そしてトムの頭を撫で回した。
「不器用な男っすねぇ。素直に心配だって言えば良いのに。」
トムはキュンメルに頭を撫でられながら、
ほんのりと小さな微笑みを浮かべた。