表通りから逸れた裏道でアウラと玲は数人の輩に道を塞がれていた。
そのうちの頑丈そうな一人がにやにやと笑いながらアウラ達を眺め回す。



「嬢ちゃんたちがこんな所に来るなんてな。」



玲はちらりと周囲に視線を走らせるが、アウラは、ふわあと欠伸をして面倒くさそうに男達をぼんやりと見ていた。

お腹を満たした今のアウラには恐怖も、やる気も何も出ない。
欲求のままに惰眠を貪りたい、ただそれだけだ。

欠伸をしたアウラに男達は気づき、アウラの襟を掴みあげて脅そうと毛むくじゃらな手を伸ばした。



「こいつ自分の置かれた状況を分かってねえみたいだな。」


「この人に手を出さないでくれますか?」



玲はアウラに伸ばされた手をにこりと笑いながら横から掴み、薙ぎ払う。
男は背を地面に打ち付け小さく呻いた。

そしてアウラは玲が手を出すことに対してさも当然そうな顔をしている。
証拠にアウラは男に近寄られても一歩もそこを動いていない。

自分の仲間をやられた他の男達は、いきり立って、玲に拳を振るうが、
玲は軽々とそれらを避けてながら、一人一人完璧に急所を狙って伸して行く。

アウラは欠伸を噛み締めてから、最初に意識が沈み、無様に地に臥している男を見下ろした。



「君らは随分と運が良かったねぇ。
んー、それとも喧嘩を売ったということは運が悪いのかな?
でもやっぱり運が良かったんだろうねぇ。」



何せ、あの玲に相手をしてもらったんだから。
今、隣に居るのが玲じゃなくてキュンメルや、ルアンだったら。
さて、どうなっていたんだろうねぇ?


倒れている男達の真ん中に立つ玲にアウラは話しかけた。



「レイ、完全に終わったかい?」


「・・・まだ、だね。」


「はは、こんな熱烈な視線を送ってくるのは一体誰なんだろうねぇ?」



アウラは面白そうにニヤリと笑ってから、
玲が睨んでいる家の屋根を同じように睨め付けた。



「でも面倒だし、さっさと帰ろうか。」


「え、良いの放っておいて?」


「大丈夫大丈夫。」












ロンドン市内がそれなりに静まりかえっていた夜中、
降り注ぐ月光を遮るように黒いマントがはためく。

黒いマントの男はロンドン市内を見下ろせる時計塔の頂きに座っていた。
ガス灯の位置や数、路地を頭に叩き入れながら双眼鏡を覗き込んでいると
偶々人影を見つけ、興味半分でピントをあわせると男は双眼鏡越しに人影が女だったことが判った。

不可解な行動をしている女を男は眺めていると、
死角だった所から何かが倒れたのを見た。

そして女の足下には暗くて気づかなかったが暗紅色を纏った何かが倒れている。
女は更にその何かにきらりと光るものを振り落としては、引き、振り落としては引いていた。

男は女のある種の手際よさに、くつりと喉で嗤った。



「知ってるか?こそこそと番犬が嗅ぎ回っているらしい。」


「らしいですね。どうします?
こっちに牙向けられたら面倒だと思いますけど。」


「いや、捨て置けばいい。それよりアイツが来たらしいぞ。」


「可哀想に。」


「全く思ってないだろう。」


「あはは、バレました?」


男は眺めていた女が去るのを見届けるとつまらなさそうに身を翻した。



「あんなんじゃ余興にもならんな。」