何店もの露店などが軒先を連ねている貿易港にアウラは来ていた。
まだ昼も回っていないのにあらゆる国の商人や買い物客で賑わいを呈している。


アウラは両端にずらりと並んでいる露店の大通りを
人の流れに逆らうようにすいすいと足を進めていた。



「わっ!」


「おっと、大丈夫かい少年。」



アウラは自分の前を横切ろうとして転びかけた少年を手を伸ばして支えると、
少年は助けられたことに気づき、はにかみながらありがとう!
と言って人混みの中に紛れていった。

アウラは鞄を背負いなおすと、一際人だかりが出来ている露店が否応無しに目についた。


見たい・・・!


アウラは己の欲望に忠実に従い、その露店に近づいて人々の後ろから覗き込んだ。



「さあ!見て下さい。これがエジプトのミイラです!装飾品も販売致しますよ!!」


「おお、これが。」


「うっわあ、気持ち悪い!!」


「でもあれ昔のお姫様とかなんでしょ?あのネックレスは綺麗!」


「横にあるのが猫のミイラなあ・・・。」



アウラは人々のざわめきを聞いて内心溜息をついた。

19世紀頃から、それなりに秩序や平等を保っていた世界の均衡が崩れ、
支配する側と支配される側に二分された。

先駆けとなったのはスペイン王に許可されたエンコミエンダ制による
アステカ帝国やインカ帝国、ラテンアメリカの植民地化か。
インド、エジプト、インドネシア、眠れる獅子と言われる清国等が
権利や営利を貪られ迫害を受けている。


あ〜ぁあ、嫌になっちゃうねぇ


今回はミイラないしはエジプトの話をすると、エジプトは昔はフランス、今はイギリスに支配されている。
そこでエジプト人から見た外国商人たちやヨーロッパからの旅行客は
訪れた記念としてピラミッドの中に眠っていた
ミイラや装飾品をお土産感覚で持ち去った。
大きく言ってしまえば墓荒らしで倫理に反するが、そんなことは彼らには関係が無かった。

何しろ自分たちが第一国民で他は第二、第三、
もしくはずっと下と見なしていたからだ。
無論エジプト人たちは1879年ウラービーの反乱を起こしたが
圧倒的武力を持つイギリス軍隊に鎮圧された。

アウラはちらりと人だかりの隙間から偶然見えたミイラの窪んだ眼が
慟哭をあげているように思えた。


・・・本当に難儀なことだねぇ。


不快な気持ちを人知れず感じ、その場を離れ、人混みを歩いていたアウラは、
ふいに金色に輝くそれを見つけ、瞳を輝かせながら手を伸ばした。









港の船着き場の時計台の下、指定された服装をしていたクレインと玲の姿をとらえ、二人のもとに駆け寄った。

向こう側もアウラを見つけ、玲は小さく手を振るが、
クレインの視線がアウラが持つ紙袋に集中していたのに気づき、小さく玲は首を傾けた。



「アウラおはよう。」


「レイおはよう〜、クレインも。」


「ああ。・・・あえて聞くがその紙袋から出てるその黄色いのは何だ。」


「これかい?ふふふ。さっき妙に人だかりが出来てた近くの露店に売ってたのさ〜。
それよりも見たまえこのレモンの光沢・・・!
まるで金色に輝く宝のように見えないかね。」


「・・・。」



ふるふると震えながら俯いているクレインに玲は気づきハッとなった。



「アウラ、それは向こうでも流石に買えると思うよ!
ほら、クレインさんも、あの、」


「このレモン馬鹿のろまアウラがあああ!!」



ドーンとクレインの怒りが爆発したと同時に予定時刻より8分過ぎた時計の針が一分、進んだ。