大英帝国に来た日、暴漢達を伸している最中感じた強い視線を覚えているだろうか。
あの夜、アウラは玲とホテルで別れた後
その強い視線を送ってきた者の元へ実は赴いたのだ。
アウラは、ソファーに体を埋めながら目の前の男に視線を向けた。
「よくオレだと分かったな。」
「懐かしいものだったからねぇ。
それで、いったい何のようだい?」
「依頼だ。」
「君が依頼だなんて珍しいねぇ、ジャック。」
「まぁな。」
ジャックは、そう返答をしながらアウラの前のソファーに腰をおろした。
アウラは、たいして興味もなさそうに眺めながら、
ジャックに関する記憶を引っ張りだした。
「・・・こっちは忙しいってことを承知の上なのかい?」
じと目で視線をよこすと、ジャックは口を弧に歪めた。
「キュンメルを儀式も行わず内密に
コーサ・ノストラに入れた恩を忘れては、いないだろうな?」
「・・・ははは、忘れるだなんてする訳ないだろ〜?」
そう、彼にはその恩がある。
アウラは、大げさに肩をすくめ、ソファーの上に足を乗せた。
「で、ジャックの可愛くないお願いは一体何だい?」
ジャックは、ひくりと口をひきつらせたが、
元の顔にすぐに戻し、気を落ち着かせるように
長い足を優雅にくみかえた。
「切り裂き野郎の正体を暴くのを手伝ってもらう。」
「ふうん。ジャック・ザ・リッパーねぇ。
それならキュンメルを使えばどうだい?」
「アイツだけだと心許なくてな。
俺が欲しいのはいざというときの保険だ。」
「・・・仕方ないねぇ。」
「悪いな。」
「君の立場というのもあるだろうし仕方無いことさ。
おかげで"ココ"では始終気を張らなくて済むしねぇ。」
「女王陛下も眼を瞑って下さるそうだ。」
「ワォ、流石だねぇ。」
アウラは、闇夜の中、ジャックとの会話を思いだした。
さぁて、お手伝いさんの、お手伝いさんによる、主張でもしようかねぇ。
手首をひねると、ダイヤのトランプが手の中に現れる。
人指し指と中指でトランプを挟んだ後、
純白に輝く銃のボディを優しくなであげた。
銃を握っている方の手を静かにあげ、
銃口を空へと向けて静かに引き金をひく。